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『オリキャラコンテスト』の自キャラを小説にしてみた

ワタベ2018-04-26に開始した「雑談」の中の討論

  1. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    オリキャラコンテストの自キャラである『エシャロット=ウィル=ローズマイヤー』の小説を勢いで書いちゃいました。
    勿体ないので、最終13時間を目前にした現在、駆け込みで投稿してみます。
    『オリキャラコンテスト』に興味を持っていただいた方は、覗いてみて下さい。
    いろいろな面白くも魅力的なキャラクターがそろっています。
    あなたの一票が、今から約半日、最後のラストスパートになる!

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    #1
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  2. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    元暗殺者の悪役令嬢転生(仮)

    01.深窓の令嬢?

    晴天の穏やかな昼下がり。
    アヴァロニア王国ローズマイヤー公爵領にある同公爵の邸宅にて。彼女は窓辺のテラスに設置されたテーブルで優雅なティータイムを過ごしていた。
    煌めくようなブロンドヘアーに絹のように白い肌。エヴァーグリーンのドレスは薄く主張しながらも、彼女の華やかさを際立たせる。
    彼女の名前はエシャロット=ウィル=ローズマイヤー。
    栄えあるアールグレイ公爵家の、うら若き令嬢である。

    エシャロットはドレスと同じエヴァーグリーンの瞳を細め、ゆっくりと微笑みながら吹き抜ける風に縦巻きロールの髪を揺らす。

    「今日も風が心地いいわね」

    「ひっ!」

    その微笑を運悪く目にしてしまった侍女が小さく悲鳴を上げた。エシャロットは微笑みを崩さぬまま、そちらを見やる。
    確か新しく入ってきた侍女だったように記憶している。彼女はエシャロットに目を向けられると顔を青冷めさせながら土下座した。

    「も、申し訳ありません!」

    「あらあら。どうなされたの?」

    「お嬢様」

    エシャロットの真横で給仕をしていた黒髪の侍女が呼び掛ける。

    「彼女はお嬢様の恐ろしい微笑みに悲鳴を上げたのです」

    「・・・そうなの?」

    「め、滅相も御座いません!」

    「違うと言っているじゃない。アンナは大袈裟ね」

    「・・・あの表情を見ても同じことが言えますか?」

    エシャロットは再び新人の侍女を見た。彼女はこの世の終わりといったような顔をしていたが、なんとか取り繕おうと必死に表情筋を動かす。そのせいで、見るに耐えない顔となっていた。

    「・・・」

    そんな彼女の視線からそっと目を離し、ティーカップに残った紅茶を飲み干す。口の中がカラカラに乾いていた。
    やがてティーカップをテーブルに戻すと、極めて優しい声で言う。

    「彼女、疲れているみたい。新しい環境に慣れていないみたいだし、少しお休みを差し上げた方が良いわね」

    「っ!? お、御許し下さい! こちらを追い出されては、実家に顔向けが出来ません!」

    「追い出すだなんて・・・私は、貴女には少し御休みが必要と言っただけよ?」

    侍女の顔が絶望に染まる。
    これはいよいよ危ないと思ったエシャロットは別の侍女に言った。

    「顔色が優れないわ。すぐに休ませなさい」

    「かしこまりました」

    「お、御許しを! どうか、どうか!」

    侍女は必死だ。
    あんなになるまで仕事をしたがるなんて、よほど真面目なのだろう。

    「・・・お嬢様」

    「なぁに、アンナ」

    「いま彼女は、お嬢様に『暇』を与えられたと思っております」

    「その通りよ。体調を崩してまで働いてもらう必要は無いわ。きちんと身体は休めないと。誰にでも休息は必要なのよ?」

    「この場合の『暇』とは、『仕事を辞めさせる』という意味に当たります」

    「・・・?」

    新しく差し出され、湯気の立つ紅茶を見ながらエシャロットは首を傾げる。

    「いやいや。私は『休みなさい』と言っただけで、『クビにしろ』とは言っていないわよ?」

    「貴族様の『休め』とは『クビ』という意味に当たります」

    「・・・そうなの?」

    「あの取り乱しようが証明になるかと」

    「そう・・・」

    エシャロットは新しい紅茶に口を付ける。ほのかな甘味と苦味が口の中に広がり、香ばしい香りが鼻を潤す。

    「誤解を解いておいてもらえるかしら?」

    「かしこまりました」

    「はあ・・・。そろそろ、お散歩に出るわ。日傘をちょうだいな」

    「こちらに」

    「ありがとう。けれど、今日は本当に良い陽射しね。窓辺で風を感じる練習が捗ったわ。これなら<深窓の令嬢>と呼ばれる日も近いかもしれないわね! オーホッホッホッホッ!」

    「お嬢様。その高笑いが治らない限り、そのように呼ばれる日は永遠に来ないかと思われます」

    「オーホッホッホッホッ!」

    そんなこと分かってるわよ!
    そう思いながらも、なぜか高笑いが止められないエシャロットであった。
     
    #2
  3. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    02.深窓の令嬢、狼藉者を叩きのめす

    ローズマイヤー公爵領。
    アヴァロニア王国でも大貴族と呼ばれるローズマイヤー公爵により治められている領地である。
    俗に『アヴァロニアの食料庫』と呼ばれるほどの小麦の一大産地であり、肥沃な土地から採られる茶葉は王室御用達の指定を受けるほど愛されていた。
    更に広大な領地を整備された街道が主要な都市を結び、ローズマイヤー公爵領を経由した方が他領に早く到着できると言わしめるほどである。
    最も特徴的なのは、公爵の弟が自ら商会を立ち上げ、アヴァロニアでも有数の大商会となっている点だ。
    木工や食品加工も盛んであり、ローズマイヤー公爵はアヴァロニア王国でも屈指の経済力を有している。

    ーーーだからこそ敵も多い。

    公爵の屋敷は広く、敷地はそれ以上に広い。なにせ敷地内に森があるのだから。
    その森にある小道を、公爵令嬢であるエシャロットは日傘を差し一人で歩いていた。
    そんな大貴族の令嬢が一人で無防備に外を歩いていたら、どうなるだろうか?
    敷地内とはいえ、格好の餌食である。

    「止まれ」

    野太い声が聞こえ、人相の悪い男が木々の間から顔を覗かせた。他にも数人ーーーいや、三人。合計で四人が姿を現す。エシャロットは予想していたよりも少ない襲撃者の数に首を傾げる。

    「どちら様でしょう? 本日はお客様をお招きする予定は入っておりませんが」

    「公爵家の敷地の中だからといって油断したな。こんなにバカでかい敷地に住んでいるから、俺たちみたいなのが潜伏しちまうんだぜ?」

    「いえ。あなたたちが森に潜んでいたことは知っておりましたが?」

    「さすがは悪名高いローズマイヤー公爵令嬢様だ。だがハッタリにしちゃあ出来が悪いな」

    エシャロットは溜め息を吐き出す。

    「はあ。信じていただけないのは、いつものことですわ。それで、私に何か御用でしょうか?」

    「俺たちと一緒に来てもらおう」

    「お断りします」

    スカートの裾を広げ、恭しくエシャロットは一礼する。その様は優雅であり気品に溢れたものだったが、粗野な男たちには通用しない。彼らは持っていた武器を見せつける。

    「お前に拒否なんて出来ないんだよ」

    「あら。レディーの誘い方も御存知ありませんの? そんなことでは真に女性を虜にできませんわよ」

    「黙れ! この金蝿の悪女が! 大人しくさせるためだ。手足の一本は構わねえ、やっちまえ!」

    男が手にした剣を振りかぶり迫ってくる。その様子を目を細めながら見たエシャロットは思う。

    ーーー隙だらけですわよ、と。

    「ごふっ!?」

    エシャロットは身を屈めると疾風のように駆け出し、男の懐に一瞬で潜り込んだ。そして下から屈伸運動の勢いを乗せた掌打を顎に放つ。
    掌打によって首から上が跳ね飛ばされるような衝撃を受けた男は、何が起きたのか理解しないまま仰向けに倒れた。

    「な、なんだ!?」

    (仲間が一人倒されたぐらいで動揺するなんて、どれだけ御粗末ですの?)

    エシャロットは身を翻す。
    その際に強い風が吹き、エシャロットの着るロングドレスのスカートを捲し上げた。
    光り輝いているのではないかと思えるほどの脚が大腿部まで顕になり、男たちがその美しさに目を奪われる。だが黒い革ベルトが巻き付いた太腿には数本のナイフが装着されていること。そして、その意味まで理解することは無かった。

    「ぎゃっ!?」
    「ぎえっ!」

    素早くナイフを抜き去ったエシャロットは二人の男にナイフを投擲。ナイフは二人の腿に吸い寄せられるように突き刺さった。
    そのまま二人の男は苦悶の声を上げながら地面に横たわる。

    「ひ、ひいい!? ぐぎゃあ!」

    瞬く間に三人の仲間が倒されたことで混乱した最後の一人は、剣を投げ出して逃走を図る。だが森の中から飛び出してきた黒い影の体当たりによって跳ね飛ばされ、身体を押さえ付けられる。

    「グルルルル・・・」

    「ひいいっ!? ブラックウルフ!?」

    それは体長2メートルはあろうかという大きな狼だった。男の言った通り、ブラックウルフと呼ばれるモンスターである。

    「ケーン。ダメよ、そんなもの食べちゃ」

    「ウォン!」

    「そう。賢いわね。『待て』も出来たみたいだし偉いわ」

    「クゥーン」

    「よしよし、可愛い子ね。じゃあ、この方たちをいつも通り、アンナに引き渡してきて」

    「ウォン!」

    「大丈夫よ。もう一人の『ネズミ』は私が片付けるから」

    「ワオオオオン!」

    ブラックウルフが遠吠えを上げると、森の中から何匹ものブラックウルフたちが現れる。彼らはエシャロットを襲撃した男たちをくわえると、森の入り口に運んでいった。

    「さて・・・」

    それを見届けたエシャロットは森の奥に目を向け、ニコリと微笑んだのだった。
     
    #3
  4. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    03.深窓の令嬢、公儀隠密を叩きのめす

    アヴァロニア王国は王政の国家で、貴族制である。王を頂点として階級分けされた貴族たちが各地の領土を治めている。
    利点としては広大な領地を分割して統治することができ、なおかつ貴族たちに旨味を与えられることだ。それによって各地では独特な文化や名産品が生まれる。
    帝国のように皇帝が全ての領地を治めるなら中央の権力は強くなるが、画一化されてしまう。
    しかし貴族に統治権を与えると、増長する者や国王よりも力を付けてしまう場合もある。ローズマイヤー公爵領も、その一つだ。

    だからアヴァロニア王国国王はローズマイヤー公爵の動向に注視していた。当然、何人もの密偵を領内に潜り込ませている。

    カールもその一人である。
    年齢は25歳と若いが、幼い頃から公儀隠密として働いてきた優秀な密偵であった。
    そんな彼をして、いま目にした光景は信じ難いものだった。
    貴族の令嬢が屈強な男四人を瞬きをする間に無力化してしまったのだ。

    男たちは粗暴だが決して弱い人間ではない。彼は密偵として彼我の実力差ぐらいは見ただけで判断が出来る。
    確かに訓練はされていないし隙も多い。カールならば四人を同時に相手をしたとしても勝てる。
    だが、あんな一瞬で片付けるのは無理だ。素早い動きで撹乱しつつ各個撃破するので、どうしても時間がかかる。

    それを一瞬。
    最後の一人はブラックウルフによって倒されたが、そのブラックウルフたちにも驚かされた。
    ブラックウルフは戦闘力が高い魔物で嗅覚に優れるため、番犬としては申し分無いだろう。だが断言するが、ブラックウルフを番犬にする貴族などいない。
    ブラックウルフは自分より強い者にしか従わない。テイマーならば一匹ぐらいは従えられるだろうが、その主の命令以外は絶対に聞かないし守ろうともしない。
    彼らが忠誠を誓うのは自身の主であり、たとえその主から命令を受けても自分より弱い者には従わないのである。
    魔獣とまで呼ばれるブラックウルフよりも強い貴族など、アヴァロニア王国に何人いるだろうか。しかもエシャロットが従えていたのは群れのリーダーらしきブラックウルフだった。通常のブラックウルフよりも二回りは身体が大きく、動きも速い。あのブラックウルフと相対したとしても、カールには勝つ自信が無かった。

    (とんでもないものを見た)

    カールの受けた命令はローズマイヤー公爵令嬢の監視である。
    ローズマイヤー公爵令嬢のエシャロットは第二王子との婚約が水面下で進んでいる。ローズマイヤー公爵家には男子が産まれなかったため、王家が公爵とのパイプを太くするため打診したのだ。ちなみに第一王子である王太子は他国の姫君との婚約が決まっている。
    だがエシャロットには悪い噂が絶えないのである。

    いわく、平民を家畜のように扱う悪女である。
    いわく、格下の貴族を奴隷として扱う悪女である。
    いわく、金遣いが荒く、傲慢で他者を見下すことを生き甲斐としている。

    そんな噂を聞いてしまった第二王子がエシャロットとの婚約をゴネているのである。第二王子は政務に長けているが少し気弱なところがある。悪女と名高いエシャロットを敬遠するのは当然と言えた。
    だからこそカールが派遣され、噂の真偽を確かめることとなったのだ。

    ローズマイヤー公爵邸の敷地は広く、潜伏できる場所は数知れない。屋敷は通常の貴族と変わらないというのに、なぜこれだけ広い敷地を持っているのか不思議とされている。
    敷地が広ければ権威は示せるだろうが、賊が潜伏しやすいのだ。これなら密偵が入り放題である。
    だがローズマイヤー公爵の情報は驚くほど集まり難い。公爵が情報戦略に強いからだろうが、それにしても集まりが悪すぎる。それを探るのもカールの仕事であり、そのために森の中を調べていたら監視対象であるエシャロットが一人で森の中に入って来るではないか。
    あまりにも危険だ。
    しかも森の中には武装した男が数人、待ち構えていた。
    おそらくだがエシャロットはこの時間、一人でこの森を散策することを日課にしているのだろう。それを知った賊が待ち伏せし、エシャロットを誘拐して身代金でも公爵に要求するつもりなのかもしれない。

    カールはエシャロットを助けるか迷ったが、そのまま事態を静観することにした。自分は王家の隠密。存在を知られるわけにはいかない。
    ところがエシャロットは賊をたちどころに無力化した。それに驚愕していると、エシャロットの目が自分を捉えた。
    彼女がニヤリと嗤う。
    その笑みにカールは戦慄を覚えた。

    (バカな! なぜ気付かれた!?)

    カールは十分に距離を開けてエシャロットを監視していた。しかし遠目からでも彼女は自分と目を合わせ、嗤うと一直線に向かって来たのだ。

    (くっ!?)

    逃走を試みるが、エシャロットの走る速さは驚くほどに速い。逃げても追い付かれるだろう。

    (止む負えん!)

    エシャロットを無力化して逃げる。でなければ王家がローズマイヤー公爵に対して諜報活動をしていたことが露見する。
    カールは腰からダガーを抜いた。
    先程の男たちとの戦闘を見る限り、手加減できる相手ではない。

    エシャロットが迫る。
    悪魔のように嗤いながら。

    カールはダガーを構えながら、迎え撃つため必殺の突きを放った。狙いは肩だ。
    少しでもかすれば、塗られた神経毒の効果でエシャロットの自由を奪える。
    しかしダガーは宙を切った。エシャロットはダガーを真上に飛び避けたのだ。

    「うっ!?」

    それを目で追ったカールは、眩しい光を当てられて目を焼かれた。一時的に視力が奪われ、致命的な隙を曝す。
    しまったと思った時には遅かった。
    首筋に冷たい刃が触れるのを感じた。

    「どちら様ですか?」

    エシャロットの美しい声が聞こえ、カールは気を失った。
     
    #4
  5. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    04.深窓の令嬢、王子との婚約に舞い上がる

    「おかえりなさいませ、お嬢様」

    散歩から帰ったエシャロットをアンナが出迎える。

    「ただいま、アンナ。少し運動をして汗をかいてしまったの。湯浴みは出来るかしら?」

    「ご用意しております」

    「ありがとう。ケーンに任せた殿方四人は、どうしたのかしら?」

    「地下牢に拘束し、旦那様に御判断をしていただく予定としております」

    「そう。あともう一人、密偵らしき人を捕まえたのだけれど」

    「いつもは放置されるのに、ですか?」

    「けっこう腕の立つ人だったから、捕まえた方が良いかなと思って」

    「かしこまりました」

    「奥歯は抜いておいてね」

    「心得ております」

    「じゃあ、私はオフロをいただいて来るわ」

    「いってらっしゃいませ」

    アンナに見送られ、エシャロットは湯浴みを済ませる。そのまま部屋に戻ると、読書をして過ごし、夕食を食べた後に父であるローズマイヤー公爵に呼び出された。
    父親の書斎をノックする。
    エシャロットの後ろには侍女のアンナが付き従っている。

    「入れ」

    渋い声が聞こえ、「失礼します」と言ってアンナが扉を開ける。
    見事な銀髪の紳士がエシャロットを出迎えた。
    エシャロットの父。ヴァンダイン=ウィル=ローズマイヤーである。

    「エシャロット=ウィル=ローズマイヤー。ただいま参りました」

    「就寝前に済まんな」

    「いえ。昼に捕らえた男たちのことでしょうか?」

    「・・・うむ」

    「もう口を割ったのですか? 堪え性が無い連中でしたわね」

    エシャロットの言葉を聞き、ヴァンダインは苦い顔をする。アンナは無表情に佇んでいた。

    「四人の男はローレンスに商売で負けた商人の差し金だった。お前を誘拐して損失した分の穴埋めをしようとしたらしい」

    「まあ。それはそれは」

    「その商人の身柄は既に拘束した。安心しなさい」

    「その商人や捕らえた四人は、どうされるのですか?」

    「公爵家の令嬢を拐かそうとしたのだ。親類を含めて斬首だな」

    「そんな、勿体無い。首謀者である商人は仕方ありませんが、その親類や男たちは何とかなりませんか?」

    「ならん。貴族の面子の問題だ。温いことをすると同じことを企むバカが出て来る」

    「では密かに斬首したとして、犯罪奴隷として働かせましょう。街道整備に手が足りないと仰っていたではありませんか。安くて質の良い労働力をドブに捨てることはありませんわ」

    「・・・考えよう」

    「ふふふ。自分を拐おうとした人間の命を助ける優しさ。これで<深窓の令嬢>にまた一歩、近づきましたわね! オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・お嬢様。そもそも淑女は狼藉者を叩きのめしたりはしません」

    「あら。殺さないだけマシではなくて? 命があれば何とでもなるでしょう? オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・そうですね」

    いやもっと頑張れアンナ。
    ヴァンダインは心の中で突っ込む。
    そもそも犯罪奴隷なら解放される可能性はあるが、死んだことになっている人間を解放するわけにはいかない。エシャロットの言葉は「死ぬまで働け」と言っているのと同義である。

    「・・・あと、お前が捕らえた密偵だが」

    「ああ、彼ですか。何か喋りましたか?」

    「何も話さん。それより何故、奥歯を抜いた?」

    「密偵なら秘密を洩らさぬよう奥歯に毒を仕込んでいるのが常識ですわ。情報の漏洩を防ぐために自害するのです」

    「そ、そうなのか?」

    「彼が死ぬと情報を得られなくなるばかりか、一人の命を失うことになりますからね。不届き者の命すらも気遣う慈悲深さ。また一歩、<深窓の令嬢>に近づきましたわね! オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・」

    「お嬢様。淑女は密偵を捕らえたりはしません」

    「でもアンナ。密偵を捕らえて情報を引き出せれば、その主人に対して優位に立つことが出来るわ。それは内需の功ではなくて?」

    「・・・出過ぎた発言を致しました」

    うん。アンナに期待するのは止めよう。

    「ですが黙秘ですか。さすがはプロの密偵ですわね。腕が立つとは思いましたが、やっとまともな間者に会いましたわ」

    「そのことだが・・・」

    「ですが口を割らせる方法ならありますわよ。
     とりあえず、どこまで痛みに耐えられるか検証しましょう。
     逆さ吊りにして水に沈めることを繰り返す拷問から始めましょうか。手の爪と足の爪を一枚一枚ゆっくりと、かつ丁寧に剥がしていく方法もありますわよ。指は全部で20本もありますもの。あとは身体の至るところに釘を打つことも良いかもしれませんね。同時に男性に犯されることで尊厳を壊す方法なんかもありますが、人材に心当たりはありませんか?」

    「・・・」

    「お嬢様。拷問方法の提案が生々し過ぎます」

    「あらやだ。これは<深窓の令嬢>にあるまじき発言だったわね。一歩、後退してしまったわ」

    「あ、あの密偵に拷問は必要ない。明日の朝には解放する」

    「まあ。どうしてです?」

    「あれはおそらく、国王が派遣した密偵だ」

    「・・・どうして、そう思われますの?」

    「国王がエシャロットを探るために腕の立つ密偵を送り込んだことは知っていた。まさかお前自身が捕まえるとは思っていなかったが」

    「国王陛下が? どうして私を?」

    「正式決定ではないから伝えなかったが、第二王子であるアルベルト様とお前の婚約が進みそうなのだ。そのための素行調査の一貫だろう。アルベルト様はお前に・・・その・・・興味を持っているらしい。妻となる令嬢のことが気になるのだろう」

    「まあ! 王族の方と婚約!? これは<深窓の令嬢>に三歩は近づきましたわね! オーッホッホッホッホッホ!」

    「お嬢様。密偵を捕らえたことで後退したと思うのは私だけでしょうか?」

    「王家の密偵すら捕らえられる有能さを示したのよ。前進に決まっているじゃない。オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・失礼致しました」

    そこで引くな!
    もっと頑張れ!

    「うふふ。今夜は良く眠れそうだわ。誰と一緒に寝ようかしら? やっぱりソウジロウちゃんかしらね」

    「お嬢様。刃物に名前を付けるのは、お止めくださいと何度も忠告しておりますが」

    「だって名前を付けた刃物を枕元に置かないと安心して眠れないのよ。これだけは見逃して欲しいわ」

    「・・・委細承知致しました」

    もう手遅れかもしれない。
    ヴァンダイン=ウィル=ローズマイヤー公爵は窓から見える満月に溜め息をついたのだった。
     
    #5
  6. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    05.深窓の令嬢、ドワーフ親子の喧嘩を仲裁する

    翌日。
    エシャロットは屋敷を出て町に向かった。
    ローズマイヤー公爵邸は町から少し離れた所に立っている。公爵邸と言っても、父であるヴァンダインは町にある別宅で普段は暮らしている。無駄に広く町から距離もある本宅では公務に支障があるからだ。
    本来ならエシャロットもその別宅に住んでいたのだが、何故か彼女は本宅を気に入っており、数人の使用人と一緒に本宅を管理しながら過ごしている。周囲はそれを贅沢好きな公爵令嬢のワガママとして冷ややかに思っているのだが。

    そもそもローズマイヤー公爵本邸は先々代のローズマイヤー公爵が自らの権威を示すために建てたとされている。無駄に広い敷地を有する邸宅を持つことで他の貴族に自身の経済力をアピールしようとしたのだとか。だが実際には住まなかったらしく、ほぼ迎賓館のような役割を持っている。今代当主であるヴァンダインは屋敷の取り壊しを考えていたが、エシャロットが気に入っているのでそのままにしていた。
    ちなみに誤解されているが公爵家から屋敷の管理費用は出ていない。エシャロットが費用を負担している。

    ともあれ町に出たエシャロットが向かったのは町でも一番と評判の高い鍛冶師の店だった。馬車を路地に寄せ、アンナと二人で店内に入る。
    新顔の若い店員がエシャロットを出迎える。小柄で丸々としているが筋肉質な身体の青年だった。
    ドワーフである。
    彼はエシャロットの姿を見るなり不機嫌な顔になった。武器を扱う鍛冶屋に白のワンピース型ドレスを着た令嬢が入店してきたのだから冷やかしと思ったのだろう。

    「いらっしゃい。こんな店に、貴族様が何か御用でしょうか?」

    「マントル様は、いらっしゃいますか?」

    「親方なら奥で鍛冶をしておりますが・・・」

    「エシャロットが来たと伝えてくださらない?」

    「はあ・・・分かりました」

    嫌々そうに新人店員のドワーフが店の奥に姿を消す。店内の武器や防具を見ながら待っていたエシャロットだったが、ドタバタという音と共にさっきの青年とは別のドワーフが姿を見せた。立派な口髭を携えており、先程のドワーフより年配であることが伺える。

    「よう、嬢ちゃん! 久し振りじゃねえか!」

    「御無沙汰しておりますわ。マントル様」

    エシャロットに頭を下げられ、マントルと呼ばれたドワーフは愉快そうに笑う。
    そんなマントルを新人店員のドワーフが不思議そうに眺めていた。

    「今日は武器のメンテナンスか? 何か買ってくれるのか?」

    「両方ですわね。そろそろイサミちゃんとトシゾウちゃんのメンテナンスをお願いしたくて」

    「そ、そいつは!?」

    エシャロットに促され、アンナが取り出した二本のダガーを見て青年ドワーフが声を荒らげる。

    「親父! どうしてあのダマスクスダガーを二本とも、こんな貴族の女が持っているんだよ!?」

    「くおら、グラド! 客に失礼だろうが!」

    「なんだと! 俺は戦士の力量に合わせた武器や防具をしか売らない親父の職人魂は尊敬してたんだぞ!
     それなのに、最高傑作で誰にも売らないって言っていたダマスクスダガーを二本とも、こんな戦ったことが一度も無いような女に売るなんて、どういうことなんだ!?」

    「うるせえ! 半人前にすらなってない分際で、俺に口答えするなんざ100年早ぇ!」

    「・・・そんなにカネが欲しかったのかよ?」

    「あん?」

    「そんなにカネが欲しかったのかって聞いてるんだよ! この“金地蟲”野郎!」

    「て、てめえっ! いま、なんつった!?」

    “金地蟲”とはドワーフの間で使われる最大限の侮蔑である。
    “大地の祝福”を与えられた彼らは“土の妖精人族”と呼ばれている。頑丈な身体に不屈の魂を宿し、オーガに劣らぬ筋力を持つ。盾を構えながら片手で斧や鎚を扱えるのはドワーフぐらいだろう。
    しかも造形技術に優れ、木材だろうが鉄鋼だろうが彼らの手にかかれば造れないものは無いと言われるほどに。

    ドワーフとは大地の加護を受けた生まれながらの戦士であり職人である。そのように称されている。
    だからこそ彼らは己の技術に誇りを持ち、自分の特別な作品はこれと決めた相手にしか売らない。いくら金を積まれても、だ。
    それを行う者は金に目が眩み、大地の祝福を冒涜し、誇りと尊厳を売り払った地を這う蟲、“金地蟲”と呼ぶのである。

    そんな蔑称で呼ばれたマントルは激昂し、店に置かれてあったグランドハンマーを手にした。それに応じるように、グラドもポールアックスを掴み構える。
    ドワーフは手にした武器を構え、相対した瞬間に戦いを始める。そして戦いが始まれば決して手を抜かない。ドワーフにだけは喧嘩を売ってはいけないと人族の間で言われるほど苛烈な戦いが始まるのだ。

    だが。
    そんな両者の間に、白いドレスの令嬢が割って入った。

    「マントル様、落ち着いて下さい」

    「どけっ、嬢ちゃん! こいつは息子でも何でもない、敵だ!」

    「上等じゃねーか! こっちから親子の縁を切ってやらあ!」

    「冒険者になりたいだとか抜かして勝手に出て行った挙げ句、怪我して戦士であられなくなったから鍛冶職人になりたいだと!
     そんな調子の良いことをほざいて帰ってきたバカ息子を拾ってやった恩を忘れやがって! お前なんか母ちゃんの遺言が無かったら店の扉を入る前に叩き出してやったのによ!」

    「俺だって親父がこんな情けない職人になってるって知ってたら戻って来なかったぜ!」

    「あなたも、落ち着いて」

    「誰が情けない職人だ、ごるあぁ!」

    「てめえだ、クソ親父!」

    「・・・黙りなさい」

    『うっ!?』

    濃密な殺気を当てられた二人は、怒りを忘れてたじろいだ。それを見たエシャロットが微笑む。

    「な、なんだ、その笑顔は!? 何を企んでいやがる!?」

    「いえ。グラド様はマントル様の御子息で、このイサミちゃんとトシゾウちゃんを私が所有していることが不満なのですわよね?」

    「その武器に気色の悪い名前を付けるな!
     ドワーフの職人はなぁ! 生涯に一度、己の持てる全ての技術を用いた最高傑作を作るんだよ!
     親父のが、その二本のダマスクスダガーだ! 冒険者をやってた俺ですら、そいつを扱うのに相応しい戦士なんて片手の指で数えるぐらいしか知らないんだぞ! 貴族のお嬢様がお飾りで持っていいものじゃねえんだよ!」

    「では、私がこのダガーの主に相応しいと証明できましたら、さきほどのマントル様への侮辱を取り消し謝罪していただけますか?」

    「けっ! どうやって証明するってんだ!?」

    「そのまま、そのポールアックスを持っていて下さいな。
     ああ、動かないで下さいね? 怪我では済みませんわよ? マントル様、このポールアックスは私が買い取りますから」

    「嬢ちゃん・・・まさか・・・」

    「なにを・・・ぐっ!?」

    エシャロットの雰囲気が一瞬で変わる。
    全身が凍えるような冷たい殺気を当てられ、グラドは指一本すら動かせなくなった。

    「シッ!」

    屈強な戦士を自負しているグラドをもってしても目で負うことが出来なかった。かろうじて知覚できたのは、エシャロットの手が動いたということと黒い稲妻のような光りのみ。

    カランカランカラン

    「え・・・?」

    静かな店内に金属の落ちる音が響く。
    グラドが手にしていたポールアックスの柄の一部分が床に落ちたのだ。

    「え・・・? は・・・?」

    柄が切れたポールアックスとエシャロットを交互に見るグラド。少し遅れて、エシャロットが両手にダマスクスダガーを持ってことに気がつく。

    「これでよろしいですか? マントル様、そろそろ用件を済ませたいのですが」

    「お、おう」

    グラドは目を疑った。
    信じられるはずがない。

    ポールアックスは柄の部分で武器を防ぐことができるよう鋼鉄製になっている。その柄をエシャロットは両刀のダマスクスダガーで斬ったのだ。
    ダマスクスはミスリル以上の希少金属であり、その切れ味は伝説級の魔鉱石を除けば最高級である。
    だがそれでも、鋼鉄をこれほど鮮やかに斬ることは出来ない。少なくとも超一流の腕前が無ければ無理だ。しかも両刀。グラドが知る最高の冒険者でも難しいだろう。
    切られたポールアックスの断面を見ながら、グラドは茫然と立ち尽くしていた。

    「・・・バカ息子が済まねえ」

    「構いませんわよ。イサミちゃんとトシゾウちゃんを欲しいと言った時、マントル様も同じようなことを言ったではありませんか」

    「そ、それは言わないでくれ」

    「それで、私の用件の続きなのですが」

    「あ、ああ」

    「投げナイフなのですが、少し重心のバランスが悪いのです」

    エシャロットが目には見えない速さで手を振る。

    カン!

    店の壁に吊るしてある投げナイフ用の的に、ナイフが突き刺さった。

    「見て下さい。中心を狙ったのに、下に2ミリほどずれております。垂直に刺さるはずなのに、3度ほど傾いておりますわ」

    「お、おう」

    「持ち手の部分に少し重心がズレていますね。修正したものを20本ほどオーダーで発注させていたたけますか」

    「わ、分かった」

    「・・・グラド様?」

    「は、はい!」

    「マントル様への謝罪は未だですか?」

    「ひっ!? お、親父、俺が悪かった!」

    「い、いや。俺もちゃんと説明するべきだった。悪かった」

    「仲直りですわね! 素晴らしいことです。では、マントル様。イサミちゃんとトシゾウちゃんをお願い致しますわ。オーッホッホッホッホッホ!」

    「お、おう」

    「行きますわよ、アンナ」

    「はい、お嬢様」

    「ああ、そうでした」

    エシャロットはグラドに向き直った。

    「あんなに怒るだなんて、よほどお父上であるマントル様のことを尊敬しているのですね」

    「えっ!? いや、その・・・」

    「ふふふ。少し羨ましいですわ。オーッホッホッホッホッホ!」

    エシャロットとアンナが店を出て馬車に乗り、去っていった。
    グラドは切れたポールアックスの柄を持ちながら、的に刺さったナイフを見ていた。

    「親父」

    「店では親方って呼べって言ってるだろうが」

    「俺にも・・・あのお嬢様に使ってもらえるような武器を作れるかな?」

    「・・・これからの努力次第だろ」

    「一から仕込み直してくれるか?」

    「そのつもりだよ、バカ野郎」

    二人のドワーフは笑い合うと、店を閉めて工房に向かった。
    そしてエシャロットはと言うと、

    「親子のいさかいを私の微笑で収めましたわ! これで<深窓の令嬢>にまた一歩、近づきましたわね! オーッホッホッホッホッホ!」

    「いえ、お嬢様。淑女はダガーで鋼鉄製ポールアックスの柄を斬ったりしません。むしろ後退です」

    「なに言ってるのよ、アンナ。血を流さずに済ませたのだから、前進に決まっているじゃない。オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・浅慮な私をお許し下さい」

    「ええ、構わないわ! オーッホッホッホッホッホ!」

    アンナはエシャロットに気づかれないよう溜め息を吐き出した。
     
    #6
  7. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    06.深窓の令嬢、魔工具開発に協力する

    ドワーフの武器・防具屋を出てエシャロットたちが向かったのは、ローレンス商会だった。
    ローズマイヤー公爵、つまりエシャロットの父であるヴァンダインの弟が経営する商会である。

    「足を運んでもらって済まんな、エシャロット」

    「いえ。叔父様にはお世話になっていますもの」

    「そりゃこっちのセリフなをだがな。用件のことを考えると、俺がそっちに行くべきなんだが」

    エシャロットは叔父であるローレンス商会会長のローレンス=ウィル=ローズマイヤーに柔和な笑みを見せる。

    「私も町に用事がありましたの。それで、ご用件というのは?」

    「まず俺の商売のせいで、危険な目に合わせてしまって申し訳なかった」

    「そんなことですか。あの程度の賊、危険に入りませんわ。準備運動にもなりませんでしたのよ」

    「そ、そうか」

    少し間を置くため、ローレンスはカップに入った紅茶を飲み干した。すかさずアンナが紅茶を入れ直す。

    「俺を逆恨みした商人は兄貴が捕まえてくれたから安心してくれ」

    「そのことでしたら、お父様から昨晩教えていただきました」

    「そうか。で、もう一つの用件なんだが、アレの試作品が完成してな」

    「上手くいったのですか!?」

    「それを見てもらいたいんだよ。おい」

    「はっ!」

    ローレンスが秘書に命じて、何か機械のようなものを持ち込ませる。

    「どうだ?」

    「ええ、ええ。確かに扇風機に近い形をしていますわ!」

    それは扇風機と言って間違いのないものだった。四枚の羽が回り、風を送っている。

    「どこか改良するところはあるか?」

    「羽の部分は固い網のようなもので覆うと良いと思いますわ」

    「それだと風が弱くなるんじゃないか?」

    「羽は指を切るような強度ではありませんが、子どもが指を入れると危ないですから」

    「なるほど。確かにな。魔工師に伝えよう」

    この世界にはモンスターがおり、魔法がある。いわゆるファンタジーな世界である。
    モンスターからは<魔石>という魔力の塊を採取することができ、それは人々の暮らしを支える貴重なエネルギーでもあった。

    魔力を込めれば、水の魔石は水を産み出す。火の魔石は炎を、風の魔石は風を、土の魔石は緑を、光の魔石は光源を産み出す。
    特に火と水の魔石は人々の暮らしに書かせない。料理に暖に、水の供給にと幅広い分野で用いられる。

    こういった魔石を燃料とする技術は魔工と呼ばれ、約十年前に<アカデミー>と呼ばれる魔法の研究機関で開発された、ローレンスはいち早く、この魔工について商機を見出だし、貴族位を捨ててまで商人となったのだ。
    ローズマイヤー公爵家のバックアップもあり、ローレンスが立ち上げた商会は瞬く間に大きくなった。

    しかし他の商人が魔工市場に参加をしてくると、途端に利益は薄くなっていった。他の商人たちは魔工の技術者を囲い込み、ローレンスの商会に対抗し始めたのだ。
    それで潰されるほどローレンスは無能では無かったが、当時の魔工技術は頭打ちな状況で画期的な進展は望めない状況にあった。
    それを救ったのがエシャロットだ。
    彼女はローレンスが魔工を扱う商人だと知ると、こう尋ねたのだ。

    「お料理に使う火の魔石ですが、火力を調整できないのですか?」

    「火力を調整? 何のためにだい?」

    「だって、火力を調整できればお料理がしやすくなるでしょう?」

    当時のエシャロットは14才。その頃のエシャロットは金遣いが荒く、庶民を奴隷のように見下げる腐った貴族だった。
    子どもの戯れ言と一蹴しても良かったが、なんとなく気になって調べてみたのだ。技術の停滞に頭を悩ませていたことも原因ではあった。
    確かに料理人から主婦に至るまで、火力の調整ができれば調理が便利になるという声は多数を占めた。火の魔石は魔力を込めれば火を出し続けるが、それは一定の火力で調整は出来ない。
    料理をする者たちは、フライパンや鍋が火に当たる高さをいちいち調整しなから作業をしていたのだ。
    確かに、それが可能な調理器具があれば爆発的な人気商品になるだろう。だが火力を調整するような機能は魔石には無い。
    そうエシャロットに言うと、彼女は不思議そうに言ったのだ。

    「魔石に魔法陣を書き込んで調整することは出来ませんの?」

    ローレンスは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けたことを、未だに覚えている。どうして、そんな単純なことに気が付かなかったのか、と。

    魔法に必要なのは魔力と詠唱、そして魔法陣である。このうち詠唱は絶対ではない。威力は下がるが、必ずしも必要なものではない。
    だが魔力と魔法陣は必要だ。
    魔力の量は個人の資質によるが、魔法に込める魔力量を調整すれば威力を抑えることは難しい話しではない。そして魔法陣は魔力によって発することのできる<魔力線>と呼ばれるもので何も無い場所に描くことが出来るのだ。
    魔法陣は永らく、魔法の発動におけるトリガーのような役割を持つとされていた。だが魔法陣自体に、威力を調整するような機能が備わっているのではないか。それを魔法陣に刻めば、火力の調整は出来るのではないか。

    ローレンスはすぐさま<アカデミー>に打診し、技術の開発と商品構想に入った。結果は正解だった。
    火力の調整どころか、火の形状を変えることも水を氷に変えることも出来たのだ。
    <アカデミー>の研究者たちはローレンスを褒め称え、その技術は<ローレンスの魔紋>と呼ばれるようになった。
    慌てたのはローレンスだ。
    この技術はを思い付いたのはローレンスではない。エシャロットだ。だが<ローレンスの魔紋>は既に研究者たちの間に広まり、その商品開発における売り上げの一部がローレンスにも入るようになってしまっていた。
    土下座して謝るローレンスに、エシャロットは事も無げに告げる。

    「私のような子どもより、この技術を広める名前はローレンス叔父様のものが相応しいでしょう」

    ローレンスはエシャロットをワガママなだけの令嬢だと思い込んでいた自分を恥じた。技術料の全てをエシャロットに渡すと告げたローレンスに、エシャロットは「私はアイデアを出しただけですから」と、二割しか受け取らないことになった。そして、そんなことよりと言って魔工で出来た火力調整調理器具を見て言ったのだ。

    「この器具ですが、火からは少し離して鍋などを置けるようにした方が良いかと思いますわ。あと火力の調整ですが、込める魔力の量によって調整するのは、どうかと思いますの。庶民の方は魔力の調整なんて難しいですし、レバーのようなもので調整できるように出来ませんか? 例えば魔法陣と魔法陣を重ねたりすれば、できるのではありませんか?」

    この娘は天才だ。
    そう思った。

    翌日には<アカデミー>に魔法陣を重ねる技術について研究を依頼した。またもや<アカデミー>は大騒ぎになった。そして<ローレンスの複合魔法陣>という名前の技術理論が完成。
    その最新技術を使い、エシャロットのアドバイスを受けて作られた<コンロ>という魔工具は瞬く間に庶民の間に広まった。
    次いでエシャロットは水の魔石を用いた<レイゾウコ>なる魔工具を発案。それまで氷室に頼るしか無かった食材の保管方法に革命を起こした。
    更に今回の<センプウキ>である。四枚の羽で風を送り、涼をとれる魔工具だ。暑い季節には不可欠な魔工具となるだろう。
    そして。
    風と水の魔石を混合させ冷風を送る<クーラー>なる魔工具についてもローレンスはエシャロットから発案を受けていた。
    魔石を混合させるなど、これまでに無かった技術だ。また新しい技術が生まれることにローレンスは身震いを感じた。
    ローレンス商会がアヴァロニアでも有数の大商会と言われ、他国にすら名前が轟くようにまで急成長したのは間違いなくエシャロットの助力があったからだ。

    <センプウキ>と<クーラー>の打ち合わせを終えたエシャロットはニコニコ顔のローレンスに見送られ馬車で帰路に着いた。

    「これで暑い季節でも服を脱がずに過ごせるようになりますわ! また一歩、<深窓の令嬢>に近付きましたわね! オーッホッホッホッホッホ!」

    「いえ、お嬢様。そもそも淑女は例え暑くても自室で衣服を脱いで過ごしたりはしません」

    「だから、そうしないための魔工具じゃない。オーッホッホッホッホッホ!」

    「・・・お嬢様の執念に、アンナは戦慄を抱かずにはいられません」
     
    #7
  8. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    07.エシャロット=ウィル=ローズマイヤー

    さて、お気付きの方も多いとは思うが、エシャロット=ウィル=ローズマイヤーは転生者である。
    現代の地球と酷似した世界の、これまた日本という国に類似した世界から転生した。

    前世の彼女は暗殺者として育てられた。
    とある独裁国家では各国の孤児を買い取り、スパイとして育成していたのだ。幼くして実の母親に売られた彼女は、天性の運動神経で諜報活動から暗殺までこなす優秀なスパイとして育った。

    そんな彼女は自身が生まれた日本に配属された。日本の技術や文化を盗み、独裁国家の転覆を図る組織の要人を暗殺した。
    しかし彼女は日本の文化に触れ、アニメや漫画といったものに影響を受け始めた。特に魔法少女系のアニメやお姫様が登場するような作品にハマり、ライトノベルにも興味を持った。

    そしてーーー
    二次元の影響をモロに受けた彼女は自ら独立国家の悪行やテロ行為を某超大国にリーク。独裁国家は超大国の爆撃を受けて崩壊した。
    だがその報復を受けて、彼女は殺された。銃弾の雨を降らされ、最後の最後まで抵抗して死んだ。
    後悔は無かった。
    物語りの主人公のようにカッコ良くは死ねなかったが、自分と同じような境遇の子どもは増やしたくなかった。

    そして。
    気が付くと、豪勢なベッドで寝ていた。
    混乱したが、瞬時にエシャロット=ウィル=ローズマイヤーの記憶が流れ込んできて悟った。

    あ、これ、異世界転生だわ。

    夢に見たファンタジーな世界。その貴族、しかも王族に次ぐ身分に生まれ変わった。
    彼女は舞い上がった。
    物語りの中のお姫様になれると思った。

    だがエシャロット=ウィル=ローズマイヤーはクズだった。
    平民を家畜と呼び、身分の低い貴族は奴隷と呼ぶ。金で何でも手に入ると思い込んでいて、勘違いの万能感に酔いしれていた。
    そんな彼女に群がるのはローズマイヤー公爵家の経済力に擦り寄りたいこれまたクズばかり。そんな連中に持ち上げられ増長し、そんな自分をーーーエシャロットは心底嫌っていた。

    彼女の母はエシャロットを産んでから、産後の状態が悪く一年後に他界した。エシャロットの母と大恋愛の末に結ばれたヴァンダインは再婚の申し出を尽く断り、愛する妻を失った悲しみをぶつけるように仕事に没頭した。
    結果、エシャロットは乳母や屋敷の使用人、家庭教師などによって育てられた。
    彼らは貴族は平民に頭を下げてはいけない、貴族は偉い、その中でもエシャロットは特に偉いと言って育てた。
    エシャロットは父に会えない寂しさから、高価なものをねだるようになった。なまじカネのあるヴァンダインは、それらを全て買い与えた。本当に求めているのは愛情だと知らずに。彼女の成長を喜ぶ笑顔だとは知らずに。

    そうして傲慢に育ったエシャロットは14歳になり社交会にデビューした。そして現実の厳しい風にさらされた。

    金の亡者。王族すら敬わない厚顔無恥な令嬢。民を民と扱わない非道な令嬢。
    自分でもおかしいとは思っていた。けれど誰も指摘してくれなかった。それが正しいと信じていた。
    だが、全てに裏切られた。

    結果、エシャロットは壊れた。心の殻に閉じこもった。そして、それが前世の記憶を呼び起こし、人格すら入れ換えた。

    ”彼女”はエシャロットを心の中で抱き締めた。
    もう良いんだよ。
    休もう。
    あとは私に任せて。

    彼女はエシャロットを<深窓の令嬢>と呼ばれる貴族令嬢の中の貴族令嬢にすると決めた。なぜなら、エシャロットの母がそう呼ばれていたからだ。

    目鼻立ちはキツイし笑った顔は何かを企んでいるようで怖かった。だが前世の記憶をフル活用し、エシャロットを<深窓の令嬢>にすると決めた。幸い、貴族のマナーなどはエシャロットが完璧にマスターしていた。

    暗殺者として育てられた過去を思い出せば、悪役令嬢から人生を再スタートさせるなんて、どうってことはない。
    そうして。
    彼女の間違った知識による<深窓の令嬢>への道は始まったのだ。

    その行く先が、どうなるのか。
    それは作者も分からない。
     
    #8
  9. ワタベ

    ワタベ ユーザー

    以上です! ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます!
    『オリキャラコンテスト』では、このエシャロットを上回る個性的なキャラクターたちがフェイスグラフィックなどを掲載されて、皆様の「いいね!」待っています。
    投票に参加してみませんか?
    ありがとうございました!

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    #9
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