シトラス様制作『ふりげぶ!』の二次創作小説(連載・全四話)

<ふりげぶ!1>

「ふああ」
朝の通学路を欠伸をしながら登校する。

俺の名前は本宮秀司。
ごくごく平凡な高校生だ。
昨夜は発売されたばかりの超有名RPGをクリアしていて、半ば徹夜してしまった。
古文の授業で居眠りしないようにしないとな。
あの担当教師、怖いんだよな。教育委員会に言ってやろうかってレベルだぜ。言葉の暴力も体罰だろうよ。

「秀司、おっはよ!」

「うおおっ!?」

背中を強く叩かれ、前に倒れそうになる。
なんとか踏ん張り、後ろを振り返った。

「なにしやがる、梓!」

「あははははっ! ごめんごめん。
 あんまり眠そうに歩いてるもんだから、渇を入れてあげようと思ってね」

「要らんお世話だ!」

ったく・・・
こいつの名前は川島梓。
俺とは、いわゆる幼馴染みって関係だ。

誤解の無いように頼みたいが、マンガに出てくるような関係ではない。
たまたま両親が友達同士で付き合いがあり、たまたま保育園が一緒で、小学校から中学まで同じクラスだったというだけだ。さすがに高校まで同じところに行くと知った時には何かの呪いかと思ったが、やっと違うクラスになったのだから偶然だろう。
小学生の頃はゲームの話しで盛り上がることも多かったが、高学年に入れば会話する機会も少なくなった。こんな風に気心の知れた相手にはガンガン行く奴だから、俺が特別というわけでもない。

「まーた何かゲームでもやってたの?」

「まあな」

「ひょっとして、<ドラファン>?」

「よく分かったな」

「まあ最新作が出たばっかだからね」

「ふっふっふっ。もうクリアしてやったぜ」

「はやっ! あれって先週発売されたばっかじゃない!」

「ふっ。ゲーマーを舐めるなよ」

「褒めてないし。勉強しなさいよね」

「お前に言われたかねーよ」

「で、面白かったの?」

「いや~、微妙」

<ドラファン>の正式名称は、<ドラゴン・ファンタジー>だ。シリーズだけなら10作を越える大人気RPGで、関連作品を含めると100は越えるんじゃないだろうか。最新作も百万本を越える売り上げ本数を誇っている。
華麗なグラフィックに、独特なシステム。そして濃厚なストーリー。シリーズを通して出てくるドラゴンがカッコ良いと人気を集めている。
しかし最近はマンネリ化が進んでおり、正直に言って宣伝ほどのインパクトは薄い。絶頂期は三百万本も売れていたらしいし、それを考えると人気も下火になっているのかもしれないな。

「そっか~。微妙だったか~」

「ああ。なんつーか、今じゃドラゴンもゲームならメジャーだしよ。確かにグラフィックはレベル高いけど、それだけだとインパクトが弱いんだよな」

「ストーリーは?」

「小難しくて、はっきり言って分からん。人間ドラマが初期作からのテーマみたいだが、魔法より強い兵器が出てきたら魔法いらんだろって感じだ」

「なるほどね~」

「あれなら、俺がシナリオ書いた方が盛り上がるね」

「どんな自信よ、それ」

「いやいや、マジで。そう言えば、RPGツクールって知ってるか?」

「・・・え? あ~、まあね」

「梓でも知ってるのかよ。なんかRPGが簡単に作れるゲームソフトらしいんだけどよ。そーいうので俺様がゲーム作ったら、神的な作品が出来上がるかもな。ってか、最近のRPGはグラフィックが綺麗なだけで中身が無いんだよ。尺だけ長くて飽きてくるし、こうもっと魂に火が点くような作品を俺なら作れると思うんだよな」

これは<ドラファン>をクリアした後に、割りと真剣に思ったことだ。最近、あまりRPGをクリアして感動することが無くなってきた。

「俺ってば、けっこうRPGも数をやってるしよ。プレイヤーが何を面白いと思うかってところも熟知してるわけよ。ちょちょいとシナリオ書いて、グラフィック付けてさ。そのRPGツクールとかいうソフトでゲーム作って売り出したらミリオンヒットして、天才ゲームプロデューサーみたいな感じで注目されたりしてな」

―――と。
そこで俺は梓が歩かず、立ち止まっていることに気が付いた。

なんだ?
身体が震えてる?

「お、おい、どうしたんだ? なんか震えてるぞ?」

「・・・いま言ったこと。本気?」

「・・・え?」

な、なんだ?
これ・・・殺気?
背中から冷や汗が止まらない。

「ちょちょいとシナリオ書いて、グラフィック付けてゲームを作る?
 アンタ、ゲーム制作なめてんの?」

今までに聞いたことのないような冷たい声だった。母さんが本気で親父に怒った時に似てる。

「い、いや、その・・・」

「放課後、私に付き合いなさい」

「は? な、なんで・・・」

「いいから!」

「はい!」

なんなんだよ・・・。
この時の俺には、知る由も無かった。

ゲームをツクる。
その大変さも、辛さも。
そして―――歓びも。
 
最後に編集:
<ふりげぶ!2>

放課後。
ホームルームが終わると、俺は机から立ち上がり身体を伸ばした。

やっと終わったぜ。
五限目の古文はマジに危なかった。
昼飯後の満腹感がある中で子守唄が延々と流れてるんだ。あれで寝るなとか、半ば拷問だな。

「よお、秀司。今日は暇か?」

クラスメイトで、よく話す友達のグループが俺に話し掛けて来た。

「暇っちゃあ暇だぞ」

帰ったら<ドラファン>の隠しダンジョンに挑むつもりだったけどな。

「じゃあよ。俺たちとファミレスに行かね?」

「なんで野郎とファミレスでお茶しなきゃなんねーんだよ」

「誰が野郎だけたと言った?」

なん・・・だと?

「桃乃坂高校の女子と合コンする予定なんだけどよ。メンツが一人、足りないんだよ」

「マジか!?」

桃乃坂高校と言えば今でこそ共学だが昔は公立の女子高で、今でも男女比が3:7という夢のような高校だ。
制服は可愛いし、通っている女子のレベルも何故か高い。
俺も受験したかったが、偏差値が足りずに諦めた高校だ。

「行くに決まってるだろうが!
 ってか、なんで一番に誘わないんだよ!?」

「いや。お前、最近すぐに帰ってただろ」

<ドラファン>にかまけていた皺寄せが、こんなところに!?

「行こう、すぐに行こう。どこのファミレスだ?」

「今から電車に乗って、二駅向こうの―――」

バン!

教室の扉が乱暴に開かれ、その爆音のような音で放課後になり騒がしかったクラスが静まり返った。
全員の視線が、いま教室に入って来た人物に注がれる。
もう人でも殺して来たんじゃないかというような目で教室を見渡したその人物―――梓は、俺を見つけると最短距離で歩み寄って来た。

「・・・行くわよ」

「ど、どこに?」

「今朝、私に付き合いなさいって言ったでしょ」

「い、いや・・・俺、急用が・・・」

「あ゛?」

「行かせていただきます!」

そのまま梓に手を引かれて連行されていく。

「な、なんなんだよ?」
「いまの、隣のクラスの子だよな?」
「なに、あの二人、付き合ってんの?」

どこをどう見たら、そういう結論になる!?
クラス中の視線を一身に集め、俺は教室を出ていった。
梓は無言で俺の手を引いている。
たまに驚いた連中が後ろでヒソヒソと話している。 
そのまま段々と、人気の無い場所まで連れてこられる。

「ここよ」

「ここって・・・」

そこは校舎の端にあるLAN教室と呼ばれる場所の隣だった。
LAN教室は情報処理という授業で使われる教室だ。部屋の中にはパソコンが何台も置かれている。
情報処理は言うならパソコンの扱いを学ぶための授業なのだが、あまり人気は無いし使われるのも年に数回だ。ぶっちゃけ、今はスマホやタブレットの時代だからな。パソコンなんて知らなくても問題ないと思っている。

梓は迷わずにLAN教室の隣にある部屋に入ると、一台のPCに電源を入れる。
立ち上がった画面にパスワードらしきものを打ち込むと、何かのソフトを起動させた。

RPGツクールMV?

「さ、ツクりなさいよ」

「いや、意味が分からん」

「これが今朝、アンタが言っていたRPGツクールよ。
 これがあれば、簡単にミリオンヒットのRPGを簡単にツクれるんでしょ?」

いや・・・。
確かに、そう言ったが・・・

「そんなこと言われてもな。俺は、このソフトを触ったことすら無いんだぞ?
 それなのに、いきなりゲームなんて作れるわけないだろ!」

「なんだ・・・。立派なのは口だけだったのね」

カッチーン。

「そこまで言うなら、やってやるよ! 使い方を教えろよ!」

「な・ん・で、私がアンタにツクールの使い方を教えないといけないのよ!?」

「使い方が分からないと、作れないだろうが!」

「自分で勉強しなさいよ!」

「どうやってだよ!?」

「あらあら」

『!?』

言い合う俺たちの間から、いきなり女子生徒が声を掛けてきた。
この高校は、女子のスカートの色が学年で違う。
あの色は・・・確か三年生だ。

これが、俺と山下先輩との出会いだった。
 
<ふりげぶ!3>

「梓ちゃんが男を部室に連れ込んでるわ」

「ちょっと、部長! 変な勘違いをしないで下さい!」

「でも、彼は男の子よね? まさか、男装してるの?」

「いや、普通の男子生徒ですけど・・・」

「じゃあ、私の表現に間違いは無いわよね?
 ビックリしたわよ~。あの梓ちゃんが人目もはばからず、<男子生徒>と<手を繋いで><廊下を歩いていた>んだから。
 しかも二人っきりで部室に入って行くんだもの。お姉さん、ドキドキしちゃった」

「だから、変な勘違いをーーー」

赤かった梓の顔が、少しずつ青白くなっていく。

「私が―――こいつと<手を繋いで><廊下を歩いて>た?」

「ええ。男性をグイグイ引っ張る、姉さん女房みたいだったわ」

「~~~!?」

梓は頭を抱えて、その場に崩れ落ちた。
なんなんだ・・・。

「え~っと、初めまして。
 私は、この<フリーゲーム制作部>の部長で三年生の山下久実よ」

「あ・・・い、一年の本宮秀司です」

「秀司くんね。君は、どうしてこの教室に?」

「いや・・・梓に分けも分からない内に連れて来られたから、よく分からないんですけど・・・」

「そうなの? てっきり入部希望者かと思ったわ」

入部希望者?
そういえば、フリーゲーム制作部とか言ってたな。

「この部屋は<フリーゲーム制作部>、通称<ふりげぶ>の部室になっているのよ」

「ふりげぶ? 何をする部活なんですか?」

「基本的にはゲーム制作かしらね」

「ゲーム制作? 高校生が?」

「と言っても、フリーゲームだけどね。
 コミケで販売とかしているわけじゃないし、基本的に個人個人で創作活動をしているから」

「フリーゲームって何ですか?」

「無料で遊べるゲームのことだよ」

「ゲームが無料で遊べるんですか!?」

「大半が個人やサークルで作っている自主制作だけどね。
 そうねぇ・・・秀司くんはホラーゲームとか謎解きゲーは好きかしら?」

「あんまりやったことは無いですけど、まあ・・・」

「じゃあ、このゲームなんて面白いと思うわよ」

山下先輩はパソコンを操作してRPGツクールMVの画面を閉じると、別のアプリを立ち上げた。
あ・・・俺の前を通り過ぎた時に、良い匂いが・・・。

「<青鬼>・・・?」

「ええ。これがコントローラー。プレイしてみて」

「・・・」

無料で出来るゲームか。
スマホのアプリなんかではよくあるけど、ああいうのは後で課金が必要になったりするもんだ。

オープニングは、サラリとしたものだった。主人公の名前は変えられるみたいだが、俺は名前を変えない主義だ。
どうやら四人の学生が古い洋館に肝試しに来たところから始まるみたいだな。野郎が三人、女子が一人。
何かが割れる音がして、主人公はその音を探りに行く。どうも主人公は知的キャラみたいで、「ホラーなんて無い」みたいなことを平気で言う奴みたいだ。眼鏡もかけているしな。

元の場所に戻ると、一緒に来た連中がいなくなっていた。そいつらを探さないとダメらしい。屋敷の外には出られなくなっていた。
二階に上がると、すぐに一人目が見つかる。だが、何かに怯えているようで話しになら無い。仕方が無いので、屋敷の探索を再開する。そして、書庫のような場所に行くと・・・

「な、なんだよ、こいつ!?」

青色の化け物みたいな奴が現れて、追い掛けてくる。反射的に逃げ出すが、マップが変わっても追い掛けて来た。

「あっ!?」

部屋の中に逃げ込むと、それを追い掛けてきた化け物に捕まってしまいゲームオーバーになった。

「く、くそ! もう一回だ!」

あんなに簡単にゲームオーバーになるなんて、俺のゲーマー魂が許さない。俺はセーブした画面からゲームを再開した。

気が付くと、陽が暮れかかっていた。

「ちくしょう! またやられた!」

あれから二時間ぐらいか。
いなくなった仲間を見つけて話し掛けようとしたら、あの青い化け物に変わって捕まり、ゲームオーバーになった。もう何回目かも分からないリトライをしようとして・・・

「はい、しゅ~りょ~」

「あっ!?」

山下先輩にコントローラーを取り上げられる。

「ふふ、面白かった?」

「ま・・・まあ・・・」

「続きがやりたいなら、明日も部室に来ていいよ。そろそろ帰らなくちゃだから」

俺は時計を確認する。
もう6時に近い時間だった。

「もう、こんな時間に・・・」

「すごく夢中だったね。紹介した甲斐があったよ」

「う・・・」

先輩に笑顔で言われ、気恥ずかしくなる。

「今の<青鬼>はね。映画化もされたフリーゲームなんだよ」

「無料で出来るゲームが映画化!?」

「私たちからすれば目標であり、夢のある作品なんだ」

・・・確かに、このゲームは面白かった。
かなり難しいが、それをクリアした時の嬉しさが半端ない。あと、いきなり襲ってくる青い化け物も怖い。いつ襲ってくるか分からないから緊張感があるし、逃げるだけじゃなくてタンスに隠れたりできるのも面白いと思った。
こんなゲームが無料で遊べるのか・・・

「このゲームはね。RPGツクールっていうゲームでツクられているの」

「RPGツクールって・・・」

「梓ちゃんが君に「これでゲームをツクれ」って言ってたソフトだね。
 まあ、あれは最新作のMVで、<青鬼>はかなり前のXPっていうソフトでツクられてるんだけど」

こんなゲームが、あのソフトを使えば作れるのか・・・?
正直、<ドラファン>より面白いような気がした。

「そんなRPGツクールでゲーム制作をするのが、この<ふりげぶ>の主な活動かな。
 どう? ゲーム制作に興味がある?」

「ダメですよ!」

先輩から勧誘を受けて、少し心が揺らいだところで梓の大声が聞こえてきた。
なんだ、いたのか。

「何がダメなの、梓ちゃん?」

「そいつはゲーム制作を舐めてるんです!
  <ドラファン>がイマイチだって言って、「ちょちょいとシナリオ書いて、RPGツクールでゲーム作ったらミリオンヒットできる」って言ったんですよ? 
 全てのツクラーに対する侮辱です!」

「あら、そうなの?」

山下先輩が目を細め、その瞳の奥が光ったような気がした。

「え? いや、その・・・」

「秀司くん、シナリオ書けるんだ」

『え・・・?』

そっち?

「私もシナリオ書くんだけどね。ちょうど良かったわ。
 いま部内でシナリオを書けるのが私しかいないから、来年からシナリオ担当が居なくなっちゃうのよかね。秀司くんがシナリオ担当を引き継いでくれると助かるわ」

「シ、シナリオ担当?」

「先輩! さっきの私の話し、聞いてました!?」

「もちろんよ。けれど「ゲーム制作なんて簡単だ」なんて考えてる人って、けっこう多いのよ?
  でないとエターナル作品が増えたりはしないでしょ?」

「そうですけど・・・」

「誰でも初めは、そう思うものよ。梓ちゃんだって初めは「シナリオぐらい、ちゃっちゃと書けるじゃないんですか?」って私に言ったじゃない」

「私の黒歴史を掘り返さないで下さい!」

「だから、秀司くんも同じじゃないかしらね? どうかな、秀司くん?」

「俺は・・・」

「ふふふ。いますぐに決めろなんて言わないから安心して?
 ゲームプレイが専門の人でも歓迎するから。何気にデバッグが一番面倒なんだし、テストプレイしてくれる人が増えるのは助かるもの」

「え~っと・・・?」

「あはは、なに言ってるか分からないわよね。でも入部してくれたら先輩が優しく教えてア・ゲ・ル」

「!?」

「じゃ、私は帰るわ。梓ちゃん、あとはヨロシクの」

「・・・はい」

山下先輩は、それだけ言うと笑顔で部屋を出ていった。
俺は耳元で囁かれた先輩の吐息に、茫然としたまま立っていた。

「・・・早く出ていけ! このエロ猿!」

そして梓に部屋から蹴り出された。
 
<ふりげぶ!>4

次の日。
俺は何故か、放課後に<ふりげぶ>の部室前に来ていた。

昨日、桃乃坂高校の女子生徒と遊びに行った奴らからは、散々に自慢された。やれファミレスでお茶をした後にはカラオケに行って、ラインの交換にも成功したとか何とか。
そんな戯言に適当に返事をしながら、心は別のところにあった。昨日の先輩の言葉が頭から離れなかったのだ。

『入部してくれたら先輩が優しく教えてア・ゲ・ル』

今でも耳元には、先輩の吐息が残っているような気がしてならない。けど、俺が気にしているのは、そんな邪な部分じゃない。
俺の手には、一冊の大学ノートが丸められていた。

これは、俺の『黒歴史』だ。絶対に人には見せたくない。
それなのに、学校に持ってきてしまった。
何故なのか、自分で自分が分からない。こんなものが人の目に触れれば、俺の学校生活は詰むのに。

「あら?」
「げっ」

俺が部室の前に立っていると、山下先輩と梓がやって来た。俺は先輩に少し頭を下げる。

「いらっしゃい、秀司くん。<青鬼>の続きをプレイしに来たのかしら?」

「あんたねぇ。よく、私の前に顔を出せたわよね」

「そんなこと言わないの、梓ちゃん」

「でもですね・・・」

「だいたい、この部室に秀司くんを連れて来たのは梓ちゃんでしょ」

「うっ! そ、そうですけど・・・」

「待ってて。いま部室を開けるからね」

先輩は部室の鍵を開けると、中に入る。梓も俺を睨み付けながら入っていった。その後ろを、俺はノロノロと入って行く。
先輩は昨日のPCを立ち上げてくれていた。梓は何やらブツプツ言いながら、ノートPCを鞄から取り出している。
あいつ、あんなもの持っていたのか・・・

「どうぞ。このアイコンをダブルクリックすれば、<青鬼>のゲームが立ち上がるわ」

先輩は笑顔だった。
だが、俺は入り口の近くに立ったまま動かない。握り締めた大学ノートがミシミシと音を立てていた。
その様子に山下先輩が首を傾げる。梓も俺を見ていた。
俺は意を決して、顔を上げる。

「せ、先輩。これ・・・」

言いながら、震える手でノートを差し出した。

「アンタ・・・まさか、大学ノートでラブレターでも書いてきたんじゃないでしょうね?」

「梓ちゃん。茶化さないの」

先輩は古くてボロボロになりかけているノートを手にしてくれた。

「本当に読んでも良いの?」

「・・・はい」

「じゃあ、失礼して」

先輩がノートのページを捲る。梓も読みたいのかソワソワしていたが、俺と先輩の間にある緊張した空気を察してか動かない。

「・・・これは、いつ書いたものなのかな?」

「・・・中二の頃です」

「約二年前か。<ドラファン>のセブンがリメイクして発売された頃だね」

「・・・」

「<ドラファン7>の内容に、よく似てるね。あの作品に感化されて書いたのかな?」

「・・・はい」

「これも、これも。どこかで見たことのあるストーリーだね」

「・・・はい」

俺が先輩に見せているノートは・・・『黒歴史』は・・・
俺の書いた『小説』だ。
面白かったゲーム作品を俺なりにアレンジして書いたもので、はっきり言うとパクリみたいなものだ。

実は俺がゲームを作りたいと思ったのは、今回が始めてじゃない。<ドラファン>みたいなゲームをクリアする度に、なぜか空虚な気持ちになったのだ。「これじゃない」という気持ちが強くなった。
それで自分なりにシナリオを書いてみた。だがゲームシナリオの書き方なんて知らないから、ライトノベルを参考にして小説みたいにしてみた。

最初はアイデアが溢れるように出てくるから、どんどん書ける。「なんだ小説なんて簡単に書けるじゃないか」とか思った。けど、書き進めていく内に新しいアイデアが浮かんでは沈み、次第に制御できなくなった。文章も上手く書くことが出来ず、どう表現すれば良いか悩んでいる内に流れては消えていく。
そうこうする内に新しいゲームが発売され、それをプレイし始めると小説のことなんて忘れてしまう。で、ゲームをクリアすると新しい小説が書きたくなって前の小説が未完成のまま放置される。
その繰り返しが、このノートだ。

本当はRPGツクールのことだって最近知ったわけじゃない。小説を書き始めた頃に体験版をダウンロードしたことがある。だが使い方が分からず、俺がイメージしたようなゲームは作れそうになかった。いや、そもそもどんなゲームを作りたかったのかさえ思い出せない。
そのことを相談したくて、とあるネット掲示板で質問してみたのだが・・・返ってきた答えは「ググれカス」だった。それ依頼、怖くて誰にも相談なんて出来なくなった。梓に冗談っぽく言ったのだって、まともに相手にされるわけがないと思ったからだ。

けれど・・・梓は真剣に怒った。
そして先輩は・・・俺に「教えてあげる」と言ってくれた。

ただの社交辞令かもしれない。ジョークだったのかもしれない。
けど、胸の奥から熱い何かが込み上げて来て、家に帰ったらこのノートを探していた。

今でも身体は震えている。
「やだ、なにこのノート。秀司くんってばオタク?」なんて言われたら立ち上がれないかもしれない。だから先輩の顔すら見れず、床を見ていた。

そんな俺の頭に―――先輩の手が、そっと乗せられた。
驚いて顔を上げると、先輩は優しく微笑んでいた。

「苦しかったね?」
「っ!?」

言葉が出ない。

「このノートを見れば、秀司くんがどれだけもがいて苦しんだかが分かるよ。ゲーム、作りたいんだね」
「あ・・・」

涙が溢れそうになった。
同年代の女子の前で泣くなんて、とんでもない。
そう思うのに、目から流れ落ちる水は止まってくれない。鼻水まで出てくる始末で、顔はグチャグチャだ。とても人前に、女子に見せる顔ではないだろう。

見れば梓も目を見開いて俺を見ていた。何か信じられないようなものを見るような目だった。

「ぜん・・・ばい」

もはや、まともに声すら出ない。

「おでに・・・ゲームの、づぐりがたを、おじえで・・・ぐだざい」

「もちろんよ」

先輩は俺の頭を撫でながら、笑顔で言う。

「ようこそ、<ふりげぶ>へ」

これは、とある高校でフリーゲームの制作に関わることになった高校生の物語り。
失敗して、悩んで、衝突して、笑い合う。
RPGツクールというゲーム制作ソフトが結ぶ―――青春ストーリーだ。
 
シトラス様制作『ふりげぶ!』の二次創作小説、これにて終了です。
ゲームならオープニング、小説でなら冒頭部分ですね。そこを書かせていただきました。
シトラス様がイメージされていた者とは程遠いかもしれませんが、二次創作ということで御容赦願います。
ご愛読、ありがとうございました。
 
ここ、感想とかいいんでしょうか?ダメなら消します。

これ、青春期のちょっと痛い部分(主人公が大言壮語なとことか)まで表現されてて面白いです。
主人公はそんなに創作とか興味ない感じの高校生なのかな、と思ってたら最後の最後で親近感がすごい。
それをちゃんと受け止めてあげる先輩も良い人だなぁ。こんな人と青春してみたい。
あと青鬼が出てきたときは思わずフフッってなりました。
全体的にそうだよ!フリゲは楽しいんだよ!ということを改めて思い出させてくれる(?)内容でした。
そして、制作の大変さも。

うまくまとまらない文ですみません。面白かったです(-人-)
 
>あるけみ様
感想、ありがとうございます!
感想をいただけるとは思っていなかったので、そのあたりのことはカキコミしなかったのですが・・・
とても嬉しいです。
こちらに感想をいただければ幸いです。
最後の最後については、自分の体験が半分ですね。
ゲームも小説も、完結させるのは大変だ・・・
 
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