僕はホラーゲームを殆どやらない身分なのに、
どうしたご縁か、青鬼のMV移植&新機能追加(『青鬼2016』)に関わらせていただいた者です。
そこで試行錯誤したことと、反響を見ながら感じたことから、
「なぜ青鬼がここまで人気が出たのか」が分かってきました。
この情報は、ホラーゲームのヒット作を考える上で大変有益になりうると思うため、
僕なりの分析を書かせていただきます。
●最初にご用心:ネタバレ前提です
青鬼をこれからプレイ予定で、ネタバレを見たくない人は、
このトピックは読まないことを推奨します。
●青鬼が爆発的人気になった理由(僕なりの推測)
■1.ルールが極めてシンプルである
ゲームオーバー条件は「青鬼に捕まること」、一貫してこれだけです。
他のホラーゲームのようにHPや空腹度などのややこしいパラメータは一切なく、
小学生でもすぐにルールが分かることです。
■2.謎解きにおける「手持ちのアイテムの活用法」の妙
これが青鬼の謎解きの最大の肝なのですが、
青鬼には、ただ「アイテム入手→謎解き」ということが少ないのです。
例を4つ挙げます
◆例1:複数のアイテムを組み合わせないと解けない謎
ピアノを調べると血が付いています。
ハンカチを持っているだけでは取れませんが、別の場所で入手できる洗剤を使い
「(洗剤の付いた)ハンカチ」にすることで、ようやく血が取れます。
◆例2:見る場所を変えることで解ける謎
檻の中の壁に意味不明の図柄が表示されます。
しかし、檻の外から調べると、暗証番号を示す数値が見つかります。
◆例3:ひとつのアイテムに複数の効果がある場合もある
中盤で手に入る「円盤」というアイテムは、別の部屋で、ボタンを押す際の順番の
ヒントになっていますが、実はそれで終わりではありません。
その後、金属の棒と組み合わせることで、鍵を作ることが出来ます。
「アイテムは一度使ったら終わり」と思っていたら、完全に見落としてしまいます。
◆例4:意外なところで、アイテムが入手したり使えたりする
最初の館の3階に、開けても壁しかない扉があります。ここで「+ドライバー」を使うと、
「ドアノブ」が入手できるのですが、これは知らないと、かなり悩むでしょう。
しかも、これを使うのは、壁紙の色が微妙に異なる所で「皿の破片」を使って壁紙を破り
扉を出現させた後、そこに取り付ける、という、相当トリッキーな使い方をします。
このようにルールは単純なのに「頭を使う」ゲームであることが大切なのです。
■3.青鬼の「登場タイミング」や「逃げ方」が計算されている
時間経過でランダムに青鬼が登場することもありますが、
大抵は、何らかのアクションを起こした時に、登場します。
そして、その際の逃げ方は、いくつかありますが、部屋の障害物などをうまく使って
逃げ切ることがコツになります。つまり、「家具の多い部屋が逃げやすい」など、
地形を熟知することで、青鬼から逃げやすくなっています。
また、面白い逃げ方として「タンスの中に隠れる」というものがあります。
特に、ゲーム中で、「2体の青鬼が上下から襲ってきて絶体絶命」というシーンがあり、
ここでは「タンスに隠れる」が唯一のかわし方になっています。
(これ以外の個所では、一定の確率でタンスを開けられてゲームオーバーになります)
攻略サイトも多いですが、自力で攻略するとなると、何度もゲームオーバーになりながら
逃げ道を見つけることになるでしょう。しかし理不尽なものは何一つなく、
「何とかうまくやってかわせる物」ばかりなのが絶妙なバランスになっています。
■4.バージョンごとに別作品のように謎解きが刷新されている
僕が移植したのはバージョン6系でしたが、他に1、3、5系がメジャーアップデートです。
これらは、殆どのマップと謎が置き換えられており、
バージョンというより、別の作品(青鬼2、青鬼3)と言った方がいいと言えます。
いずれも、上記1~3が徹底されており、バージョンが上がるたびに、
既存のファンに加えて新規ファンが増えていました。
どうやら、この作者さんは、こういうパズルを作るのが大の得意のようで、
青鬼以外の作品も、面白いパズルが満載です。
ファンを退屈させない、この意気込みは、到底僕には真似出来るものではありません。
●『青鬼2016』にて、僕が機能追加した点での評価と反省点
青鬼については「ベタ移植ではなく、新要素や、他キャラとのコラボを入れてほしい」という
要望がありました。概ね評判で良かったのですが、若干の反省点も感じています。
■1.全員生存ルートを作ってしまった
従来の青鬼のバージョンでは、乗り込んだ中学生4人のうち、主人公以外は、
どうしても救うことが出来ませんでした。
僕はそこに目をつけ、各キャラに「生存フラグ」を立てるイベントを追加しました。
これは「謎が増えた良アレンジ」「トゥルーエンドが2種類追加された」と概ね好評でしたが、
実は「ホラーゲームのジレンマ」とでも言えるものをはらんでいたのです。
多くのホラーゲームでは、生存するはずの仲間が死んでしまった時、
状況が不利になり、時には死んだ仲間が生きている主人公を襲うこともあります。
一方、生存フラグを立てれば、そういった危機が回避され、安全度が増します。
さて、ホラーゲームをやる人は、敢えて「自分を不利な状況に追い込んで、
そこから状況を打開すること」を楽しむ人が多いように思えます。
「仲間を助ける」という大切なことをした結果、
「自分を不利に追い込んで楽しみたいのに、逆の状況になってしまった」ということが
往々にしてあるといいます。
よってもし、他の追加要素を思いついていたら、全員生還エンドは
採用していなかったかもしれません。
■2.「むてきモード」での別展開はギャグ中心にした
従来の青鬼では、主人公の名前を「むてき」にすると、青鬼に接触しても死なないモードで
遊べました。それで遊んだ人も結構いると思います。
ただし、袋小路に追い詰められると詰んでしまうこともありましたね。
僕のアレンジでは、袋小路に追い詰められても、青鬼は少しずつ動くため、
はまりにならなくなったうえ、「コミカル」という別モードでは、
なんと「むてき」仕様にした時だけ見られるお遊びモードが満載でした。
つまり、従来の「ホラーで怖がらせて楽しませる」というより「お遊び要素で楽しませる」道を
選んだということです。(この多くは、僕よりも、シナリオ担当のふうきゅうさんが
相当頑張ってくれています)
これは青鬼の純粋なホラーが完璧に近かったため、「それ以上の恐怖」が思いつかなかったゆえの
策でしたが、概ね好評で、結果オーライでした。
■3.難易度強化としての「倍速モード」の導入
上記のように、アレンジに当たっては、ホラーをやらない僕(ふうきゅう氏も)は、
「恐怖度を増す」以外の演出の強化に重点を置きました。
ただ、一つだけ、難易度を上げるフィーチャーを入れました。
それが、主人公の名前を「ばいそく」にした時に遊べる「倍速モード」です。
従来のイベントは通常速度で進みますが、青鬼追跡時の青鬼の速度や、主人公の速度は倍となります。
これはどうやら、青鬼の熱狂的なファンからは、タイムアタック用に重宝され、
僕はどうしても30分切れなかったところ、15分以内にクリアする猛者が続出する結果となりました。
以上のように、「ホラーに明るくない人間が知恵を絞って行ったアレンジ」なのですが、
概ね好評でしたが、もしホラーをやる人が移植を担当していたら、全く違ったゲームになっていたと思います。
●個人的にホラーゲームのタブーだと思う事
『青鬼2016』制作にあたって、いくつかホラーゲームのプレイ動画などを観ましたが、
個人的に「これはよくないな」と思った演出をひとつだけ挙げます。
■ラストで、ゲーム中で死んだ仲間が全員生き返る
ゲーム名は伏せますが、この演出は、ブーイングの嵐でした。
僕は特に何とも思っていないし理由も分からないのですが、ホラーゲームのファンからすると、
「死んだ仲間が生き返る」というのは、大変悪い事のようなのです。
よって、『青鬼2016』でも、これは決して入れませんでした。
●結論に変えて
上記では説明しなかった部分でも、青鬼をヒット作たらしめている要素は数多くあります。
それは、シンプルなのにどことなく恐怖を感じるビジュアルや、ただ風のBGSが吹くだけの
BGMのない通常移動が、雰囲気を盛り上げています。
また、はどはど様のご指摘にあった「特定のTPOでメニュー画面を開いたら、突然仲間が青鬼に変身」などの
凝られたギミックもあるでしょう。
このあたりは、たくさんホラーゲームをやっている人ならではのアイディアでしょうね。
ホラーゲームに詳しくない人間の移植した『青鬼2016』ですが、ホラーゲームに詳しいあなたなら、
このようなゲームに、どんな演出を入れるでしょう? この記事があなたの参考になれば幸いです。
僕は……自分でオリジナルのホラーゲームを作る素質はなさそうです。